(2004年4月24日逝去 享年76歳)
「学びたかった、上の学校へ行きたかった。。自分の次元を変えてみたい。」
母の切なる想いが、今も、聞こえてきそうです。
人の心を教え、自然への畏怖を教え、拭い切れない哀しみを抱きながら、母は生きていました。
60歳を過ぎて始めた短歌。言葉を覚えながら、言葉を選びながら、精一杯取り組んでいました。

投稿した新聞を切り抜いてくれていたマスター。差し出された色褪せた古紙に、母がいました








花芽もゆ ひと雨毎に 紅をまし 俄に開く 北国の春

白樺の 若葉に遊ぶ 風のあり きらめき眩し ながき瞑目

芽吹きたつ 山を見てをり 昼下がり 飛行機雲の さやけさに会ふ

山鳩の デッデイポッポと 鳴く声に 亡き母の語りし 民話を偲ぶ

早朝に うすぎり流る 川の端に 山鳥らしき 声聞こえ来る

ものしづか 五月雨にぬれ 牡丹花 なほ香しき 首重たげに







頑固なる 父とならびし 年となり おもかげ恋し 手鏡を見る

月の砂漠の 作詞者村岡まさる 今は亡く 風紋の砂に らくだが遊ぶ

濃く深く 乳白色の 霧流る 静かな団地 洋画のごとく









岩木山 十二単衣を まとひたり 端正に秋の おごりを見せて

四季の鳥 来啼きし夫婦木の 打ち枯れて 衣まとはぬ 姿さびしき

声やさしく 鵙のつがいが 呼びあひて 残るつげの実 啄みにくる

幽谷に 戦慄はしる 暗門の 全山まさに 錦絵の如

あざらけく 五色に朝明く 午前四時 天空俄かに 掻き乱す雷









新しい 年の光の ふりそそぎ 白鳥四五羽 鳴き渡り来る

岩木山 胸まで白き ベールかけ 夕映えの中 ゆたけくおごり

初雪の 帽子かぶりて 重たげに つわぶきの花 黄の顔かしげ